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福岡高等裁判所 昭和34年(ラ)234号 決定 1960年2月16日

抗告人 倉智等

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の理由は別紙記載のとおりである。

競売法による不動産競売事件に準用せらるべき民事訴訟法第六百七十五条にいわゆる債権者とは申立債権者並にその先順位者のみを云い後順位の債権者はこれに含まれないものと解すべきである。

けだし、競売法による競売手続の開始進行は申立債権者を中枢としてなされるものであつて申立債権者はその先順位者に弁済した残余についてのみ弁済を受くべき権利を有するから、かような優先的弁済をなすことは順序上已むを得ないが、その残余を以て競売費用並に申立債権者の債権を弁済し得るときは競売の目的は達せられたものと云うべく、競売の結果当該物件に設定された後順位の抵当権も消滅するが、後順位の抵当権者は競売代価に剰余ある限度に於てのみ配当を受けるにすぎないから後順位者の債権弁済まで考慮して不必要な物件の競落を許可すべきでない。

本件に於ては債務者宮田孝所有の一括競売に付せられた宅地及びその地上の四棟の建物の最低競売価格金五百万円、昭和三十四年十一月二十七日の競売期日に抗告人が競買申出をした本件建物の最低競売価格は金六十五万七千円(記録一二六丁)であつたところ、一括競売物件については競売申出人がなかつたことは記録上明かであり、又一方申立債権者株式会社福岡相互銀行は右競売物件につき順位を異にする金額合計三百十万円(六十万円、五十万円、五十万円、百五十万円)の根抵当権を設定しているところ先づそのうちの金百五十万円及びこれに対する昭和二十九年十二月九日から配当の日まで百円につき一日金五銭の割合による損害金の支払を求めるため右抵当権の実行による競売申立をなしたことも記録上明かである。(右物件につき株式会社旭相互銀行が設定した金百五十万円と金五十万円の二口の後順位抵当権は以上の説明により考慮しない。)

然るときは、記録に現れている債務者の延滞公租公課金等を考慮に入れても、現在の段階に於ては、右一括競売物件を競売すれば優に申立債権者の債権及びこれに優先する債権を弁済して余りがあると認められるから、競売申出なき他の物件の競売により債権が充当できるとして、本件物件につき競落不許可決定をした原決定は正当として是認すべきである。

尤も本件物件については、申立債権者に先立つ、住宅金融公庫の第一順位の金額四十六万円の第一順位の抵当権が設定されており、なお債務者の実弟宮田修一は右債務の連帯保証人として右住宅金融公庫から給料債権の差押命令及び取立命令を受けていることが窺はれ本件物件の競落が許可されない場合は将来に亘つて給料を取立てられると云う一見極めて苛酷な結果を来すことになるが、現在右第一順位の抵当権者が抵当権の実行を希望しているか否かは記録上不明であり、抵当権者としてはその抵当権を実行するか或は又他の方法により債権の満足を得るかはその自由に選択し得るところであつて、連帯保証人として現在の不利益を免れようと思えば右第一順位の抵当権者に交渉して本件物件の競売方を促進し或は取立命令による取立の猶予を乞う等の措置を講ずる外はないと思はれる。

以上の理由により抗告人の本件抗告はその理由がないから棄却し、抗告費用は抗告人に負担せしめることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 林善助 丹生義孝 岩崎光次)

理由

一、およそ抵当権実行に基く不動産競売に於て之が目的とする処は債権者の債権の満足を得る事と且又、債務者の為にも債務の弁済をはかる事の至急且之が金額に於ても債務者の為に有利なる価格即ち債務額及債務額を越えて余剰ある如き金額にて競落される事が望ましい事であり

その様に努力されるべきものである。

而し乍ら世の中の現状は右の如くならず債務多額を有し乍ら抵当物件の価値の変動並適当なる競買人が現はれずして、永年債務に追はれて泣く債務者、債権者としてはいつまでも債権の満足を得る事が出来ずに債権者であり乍ら其の日の生活費に事欠いて一日も早く競落人が表はれて回収出来る日を念じている債権者も数多くあるものです。

二、本件についても例外とは云えず昭和三十二年十一月二十六日競売開始決定が為されて依り已に二年有余を経過し指定されたる競売期日も已に数回で当初為されたる評価額は全物件で総額金八百万円也の処

右数回の競売期日に於ても競買人無くその為延期され本年十一月二十七日提出されたる競売期日に於ける見積価格は併せて金五百六十数万円也となり右期間の経過に依る評価価格の減少は手続上当然の事とは云え

事実上、常識上にも過去二年前より不動産の価格が減少して居る事実は無く

福岡市の例を以てしても二、三年間のうちに倍額に値上りしている個所もあり何割かは価値が増大して居るものであります

本件の場合も同様で当初の評価より減少価値の物件ではなく且又、此の月日の経過と之に伴う評価格の減少に依り漠大なる債務を負担して日夜泣いている善良なる一国民のある事を抗告人は知り今にして競買せずば救済される途は無いと決断し右十一月二十七日の競売期日に一部物件を先づ競買したるものです。

三、然し乍ら今迄の通り抗告人に於て競買、申出為さなかつた他の物件は競買人が無くそのまゝ延期されたるものです

しかるに

別紙目録記載の申立人が最高価競買を申出をなしたる物件につき競買申出なき他の物件の競売に依り債権が充当出来るに依り競落は許さぬ旨御庁に於て十二月四日競落不許可の決定が為されましたが

これは余りにも形式的に流れたる手続としか認められません

即ち他の物件に依り債権が充当出来るとの見解は五百万円也と評価されたる残つた物件を意味されるものでありますが

これは去る十一月二十七日の競売期日に於ける評価額であり

今後競買人なき場合に右価格が減小されることは明白であり

之に伴い別紙目録物件の価格も減少される事となるもので

債務者の債務は記録に依つて明らかのものだけでも

住宅金融公庫の金三十二万円也

福岡相互銀行の金三百万円也

旭相互銀行の金二百万円也

の多額で

其の他に税金の滞納及び配当要求するべく債権者も多数ありと聞くので

右数字を以てしても債権の充当に絶対満つるものとは思料されず本物件のみにしか住宅金融公庫の抵当権は設定されて居らず

右公庫の債権の執行として給料迄差押を受けて居る債務者の連帯保証人宮田修一なる者も居り今此処で不許可決定になり別口の物件を優先的に競売するとしても右の者は救済されず

いつの日に之が債務を免れるものか見込みもつかぬ事であり

本件競売を許可する事に依り損害及迷惑を蒙る者は居らず、反つて不許可する事に依つて、重大なる損失を蒙る者ばかりであるとの事実からして競売の目的及之が立法趣旨に基いても法律の条文のみの判断で無く法で裁かれ苦しんでいる人間を法に依つて助ける温い気持も示され度く競落不許可を目録物件以外の競売を以て債権が充当できるとして為したる事は不当なる違法行為であると謂うべきである。

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